アラブ首長国連邦(UAE)は、これまで自動車中心だった国内の交通体系を大きく変革すべく、新たな高速鉄道計画を打ち出しています。1月に発表された構想によると、首都アブダビと商都ドバイを時速350キロメートルの列車で結び、両都市間の移動時間を30分程度に短縮することが目標とされています。
計画の背景

UAEでは、サステナブルな社会をめざす「UAE Net Zero 2050」戦略に沿って、温室効果ガスの排出削減や交通インフラの効率化が急務となっています。政治・行政の中枢を担うアブダビ首長国と、中東屈指の金融・経済都市として発展を遂げたドバイ首長国は、距離にして120〜130キロメートルほど。現在は車やタクシー、高速バスが移動の主流ですが、ドバイ中心部近辺では渋滞が深刻化しており、状況によっては2時間程度かかるケースもあります。
こうした課題を解決しつつ、観光やビジネスの機能強化を図るため、UAEを代表する二大都市を高速鉄道で結ぶという構想が打ち出されました。1月上旬に行われた発表の場で、アブダビ首長国のハリド皇太子は「この野心的なプロジェクトは、インフラを整備し移動サービスを最高水準に引き上げるというUAEのビジョンを反映したものだ」と強調しています。
計画概要と建設候補地

高速鉄道のルート上にはアブダビ中心部に近い駅をはじめ、開発が進むドバイ新空港周辺など含め6つの駅を設置する方針が示されています。これにより既存のドバイ国際空港やアブダビ国際空港と合わせて、将来的に国内外からのアクセスが一層向上する見通しです。具体的な投資額や開業時期は明らかにされていないものの、計画が実現すればUAEの国内総生産(GDP)を1450億ディルハム(約6兆円)に押し上げると試算されています。
観光・ビジネスへのインパクト
両都市は、世界一高い超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」や、「シェーク・ザイード・グランド・モスク」などの観光資源が豊富です。高速鉄道が実現すれば、これらの観光地を巡る旅行者の移動時間が大幅に短縮され、ホテル・商業施設など関連産業も恩恵を受けることが期待されます。また、通勤・出張などビジネスでの往来がスムーズになることで、ビジネス拠点の分散や新たな投資の呼び込みにもつながる可能性があります。
環境面とインフラ拡充の狙い

UAEは国土の大部分が砂漠や山岳地帯であり、鉄道の敷設は技術面で大きな挑戦を伴います。一方、鉄道による移動は自動車に比べCO2排出量を大きく削減できるため、「スマートで持続可能なインフラ」を掲げる国家目標とも合致します。エティハド・レール(Etihad Rail)は既に国内の主要港湾や産業地帯を結ぶ貨物路線網を手がけており、これらのノウハウを活かして旅客輸送を担う高速鉄道の整備を進める見通しです。
今後の見通しと課題

現時点では具体的な工事着手時期や費用の詳細が発表されていないため、計画の実現性や完成時期はまだ不透明です。膨大な建設コストや技術面のハードルをどうクリアするか、国際的な資本・企業との連携はどう進めるかなど、今後も継続的に注視が必要となります。それでも、国内外からの観光需要やビジネス交流が高い二大都市をたった30分で結ぶ構想は、UAEの国際競争力をさらに高める画期的プロジェクトと言えます。温暖化ガス排出量の削減、経済成長の加速、インフラの高度化という複数の課題を同時に解決する取り組みとして、今後も大きな注目を集めそうです。