ドバイ、アブダビを含むアラブ首長国連邦(UAE)にて、買い手とデベロッパーはエスクローアカウント(口座)を利用することが法律で義務付けらています

近年、UAEは不動産投資の理想的な国として選ばれています。その人気の背景には、政府の取り組みや法律などさまざまな要因があり、このエスクロー口座の義務化も不動産投資への安心材料の1つです。

購入者が新築の戸建てもしくはアパート(日本で言うマンション)を選ぶ際には、購入者とデベロッパー双方の利益を守るためのエスクロー口座の義務化が講じられます。

ドバイ不動産を購入後に、途中でデベロッパーが倒産したり、工事が頓挫するリスクはないでしょうか?

倒産や工事の頓挫に対するリスクが100%無いわけではありません。ですが、UAEではエスクロー口座の利用が義務化されているため、他の国と比較して安心して投資できる環境にあると言えます。

エスクロー口座とはなんでしょうか?不動産投資で気を付けるべきことを知りたいです。

エスクローの仕組みは簡単に言うと、物件代金の支払いに第三者機関を挟み取引することです。しかし、全額が返金保証されるという内容ではないので気をつけましょう。詳しく説明します。

エスクロー口座とは何か

エスクロー口座

エスクロー口座とは、ある当事者(または複数の当事者)によって資金が預けられ、エスクロー口座の取り決めを管理する一定の条件が満たされた場合にのみ、別の当事者(または複数の当事者)に払い出される保管口座。

UAEにて、買い手とデベロッパーはエスクローアカウント(口座)を利用することが法律で義務付けられています。エスクローアカウントはデベロッパーが用意するもので、これを守らないデベロッパーには罰則があります。

新規の不動産物件を購入する購入者は、第三者機関となるエスクロー口座に入金します。そしてデベロッパーは定められた条件を満たさない限り、エスクロー口座から出金することはできません。

エスクロー口座に入金された資金の用途には、デベロッパーの物件建設、コンサルタント、販売、マーケティング、土地の支払い以外の費用に使用することはできません。つまり、次の新たな物件の建設や別の投資に充てることはできないという条件も付きます。

エスクロー口座からデベロッパーへ資金が出金できるのは、デベロッパーが各工事段階を完了し、エスクローが依頼するエンジニア(第三者機関)によって検証が終了した後にのみです。

イメージとしては10%工事が完了したら、10%分がデベロッパーへ支払われるような感じです。

例に出してあげると、ドバイ・イスラミック銀行はこのエスクローの役割を担っており、エマール(EMAAR)などのデベロッパーが従事する建設プロジェクトへエスクローサービスを提供しています。

参照:Escrow Account Facility, Dubai Islamic Bank, https://www.dib.ae/business/corporate/real-estate/escrow

UAEが他国と比較し安心できる理由

日本の不動産を購入と異なる点は、物件の全額を最初に一括で支払う必要がないということです。

ドバイやアブダビで新規の不動産物件を購入する際に、デベロッパーから支払いプランが提示されます。

物件の条件によって割合は異なりますが、完成前に60%を支払い完成時に40%を支払う内容(60:40)や、完成前に50%を支払い完成時に50%を支払う内容(50:50)があります。

つまり、物件が完成するまで、全額を支払う必要はないのです。

物件完成後に残高を支払う仕組みがあることから、購入者は支払いの安全性、デベロッパーは事業への従事が促進されます。

そして、これに加えてエスクロー口座の義務化です。

支払いプランがあるため一括で購入全額を払わない上、既に支払った分の額を保証する仕組みが用意されています。

東南アジアなどエスクローの仕組みがない国が多い中で、UAEには投資家の保護を整えた環境があると言えるでしょう。

エスクロー口座は支払い記録としても機能

エスクロー口座は、買い手が支払った分割払いの法的記録を提供することが法律で義務付けられています。

つまり、この法的な記録は、後に支払いの証拠として法的に使用できます。

エスクロー仕組みで気をつけるべきこと

UAEで新築の物件を購入する際、支払いプランやエスクロー口座などありますが、これは完璧な保証するものではありません

理由としては建設計画の進捗によって、エスクロー口座からデベロッパーに資金が支払われるため、建設の途中段階であったとしても、エスクロー口座の資金は減っていきます。

仮に30%物件が完了した段階でデベロッパーが倒産してしまった場合、30%分の費用はエスクローからデベロッパーへ既に支払われます。そして、その費用は戻ってきません。

もし、自身が50%を払っており、エスクローからデベロッパーに払出しされていない残高は戻ってきます。

エスクローの仕組みでも100%の保証ではないので、留意しておく必要があります。

デベロッパーの倒産リスクと対応

UAEは不動産投資に理想的な国として選ばれていますが、デベロッパーの倒産リスクもあります。2010年まで遡りますが、ドバイのデベロッパーが破産申請した事例もあります。

もしも、デベロッパーが倒産してしまったらどうなるのか

1
RERA( Real Estate Regulatory Agency:不動産規制局)による建設プロジェクトの中止

Executive Council Resolution 6 of 2010 Article 23 (8)
“RERA may, based on a reasoned technical report, decide to cancel the development… If the developer is declared bankrupt.”
2010年理事会決議第6号 第23条(8)
「RERA は、合理的な技術報告書に基づき、開発を中止することを決定することができる。開発業者が破産宣告を受けた場合」

2
建設プロジェクト中止日から14日以内に、すべての投資家に返金するように要請

Executive Council Resolution 6 of 2010 Article 25 (4)
“In any case in which RERA cancels a project, it must request the escrow agent (bank) of the project or the developer, if payments are made otherwise than through the escrow account, to refund the amounts deposited in the escrow account or paid to the developer to the relevant parties no later than fourteen (14) days from the date of such cancellation.”
2010 年理事会決議第 6 号 第 25 条(4)
RERA がプロジェクトを取り消した場合、プロジェクトのエスクロー代理人(銀行)または開発業者に 対し、エスクロー口座以外の方法で支払いが行われた場合は、その取り消しの日から 14 日以内に、 エスクロー口座に預けられた金額または開発業者に支払われた金額を関係者に返金するよう要請しなければならない。

3
RERAが支払い期間の延長を認めた場合を除き、いかなる理由があろうと返金を強制

Executive Council Resolution 6 of 2010 Article 26
“If the funds in the escrow account of the project are insufficient to refund the purchasers the amounts paid by them, the developer must refund the amounts payable to those purchasers no later than sixty (60) days from the date of the decision cancelling the project, unless RERA determines to extend such period for valid reasons.”
2010年規定審議会決議第6号 第26条
プロジェクトのエスクロー口座の資金が、購入者が支払った金額を払い戻すのに不足する場合、開発者は、RERA が正当な理由によりその期間を延長すると決定した場合を除き、プロジェクトを取り消す決定の日から遅くとも 60 日以内に、購入者に支払うべき金額を全額払い戻さなければならない。

4
RERAがすべての投資家を支援し、他の司法規制を通じて資金を確実に回収

Executive Council Resolution 6 of 2010 Article 27
“If the developer fails to refund the amounts payable to the purchasers, RERA must take all necessary actions to secure the rights of purchasers.”
2010 年理事会決議第 6 号 第 27 条
デベロッパーが購入者に支払うべき金額を返金しない場合、RERA は購入者のために必要なすべての措置を講じる。

過去に不動産デベロッパーが倒産した事例はあります。しかし、エスクロー口座の担保以外にも法律的にカバーされることも投資家を安心させる要素になります。

デベロッパーの持ち逃げのリスクは?

現在のオフプラン(新規)物件への規制では、デベロッパーが資金を持ち逃げすることはほとんど不可能で、少なくとも現在ではビジネスとして意味をなさなくなります。

  1. ドバイでの不動産開発はビジネスとして参入障壁が高い
  2. 購入資金はすべてエスクロー口座にのみ入金され、個人口座や会社口座には入金されない
  3. 購入資金はプロジェクトの進捗状況に基づいてのみデベロッパーに払い出される
  4. 進捗管理はRERAの認可を受けたコンサルタント(第三者機関の外注先)によってのみ行われる

おわりに

ドバイ、アブダビを含むアラブ首長国連邦(UAE)にて、買い手とデベロッパーはエスクローアカウント(口座)を利用することが法律で義務付けられています

近年、UAEは不動産投資に理想的な国として選ばれています。その人気の背景には、政府の取り組みや法律などさまざまな要因があり、このエスクロー口座の義務化も不動産投資への安心材料の1つです。

仮に倒産しても、エスクロー口座と法律が投資家を守ってくれる仕組みがあることこから、ドバイ・アブダビでの不動産投資は他の国と比べてかなりの安心だと言えます。